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指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会 2023.09.03 第11回シンポジウム 報告

2023年9月3日(日)東京都内にて「『健保法制定』から101年・同法に基づく指導・監査の改善を求めた『日弁連意見書』発表から10年〜保険医に対する指導・監査、患者調査、健保法を考える」をテーマとした第11回シンポジウムを開催しました。
詳しくはhttps://www.m3.com/news/iryoishin/1162239をご覧下さい。

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指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会 2022.10.16 第10回シンポジウム 報告

2022年10月16日(日)大阪市内にて「保険医に対する指導・監査の現状解説」をテーマとした第10回シンポジウムを開催しました。
詳しくは下記のリンクよりご覧ください。
(1)https://www.m3.com/news/iryoishin/1086939
(2)https://www.m3.com/news/iryoishin/1087251

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指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会 2016.8.21 第5回シンポジウム 報告

2016年8月21日(日)福岡市内にて「患者・保険医の権利を守る健康保険法改正に向けて」をテーマとした第5回シンポジウムを開催しました。
詳しくはhttps://www.m3.com/news/iryoishin/451994をご覧下さい。

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指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会 2015.8.30 第4回シンポジウム 報告

2015年8月30日(日)東京都内にて「保険医への指導監査対応実務の先端とこれから〜健康保険法のあるべき解釈と運用とは?」をテーマとした第4回シンポジウムを開催しました。
詳しくはhttps://www.m3.com/news/iryoishin/353303をご覧下さい。

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指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会 2014.9.7 第3回シンポジウム 報告

2014年9月7日(日)仙台市内にて「保険医への行政指導の実際と弁護士の役割〜患者、国民、医療者にとって望まれる健康保険法とは」をテーマとした第3回シンポジウムを開催しました。
詳しくはhttp://www.m3.com/news/iryoishin/249451をご覧下さい。

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指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会 2013.9.8 第2回シンポジウム 報告

(2013年9月10日 m3.com 医療維新 掲載) http://www.m3.com/iryoIshin/article/180428/

2013年9月8日(日)岡山市内にて「なぜ増田聰子医師は自死したか?〜保険医への「恫喝」の防止策を考える」をテーマとした第2回シンポジウムを開催しました。
m3.com 橋本編集長のご厚意により、m3.com 医療維新 掲載記事(2013年9月10日付)を下記に転載致します。

 

「指導・監査による医師の自死防げ」、議連発足へ
 健保法改正研究会で石井・参院厚生労働委員長

 9月8日に岡山市で開催された、「指導・監査・処分改善のための健康保険法改正研究会」の第2回シンポジウムで、同研究会の副代表で、参議院厚生労働委員会委員長、歯科医師の石井みどり氏(自民党)は、近く「指導・監査・行政を考える議員の会」(仮称)を発足させることを明らかにした。石井氏はこの7月の参院選で個人公約として、「保険医を不安と混乱に陥れ、委縮医療を引き起こしている不適切な個別指導を是正する」ことを目指し、健康保険法などの法整備を図ることを掲げていた。10月半ばに臨時国会の召集が予定されており、それ以降、早急に立ち上げることを目指す。

 


研究会副代表で、参議院厚生労働委員会委員長、歯科医師の石井みどり氏。

 石井氏は、指導や監査を機に医師、歯科医師が自殺する例が後を絶たない現状について、「特殊なケースではない」と強く問題視。「我が国の医療は社会主義そのもの。医療費適正化のために平均点数が高いという理由で指導の対象とされる。患者のためにより良い診療をした結果として高点数になっているのに、なぜそれを抑制するのか。個別指導を受けた人は皆、『あんな思いを二度としなくない』と言う。人格が否定され、医学的な根拠を持って説明しようとしても、聞く耳を持たない」と述べ、指導・監査の制度と、行政の対応を批判した。

 健保法改正のハードルは高いことから、まず指導に当たっては、弁護士の帯同を求め、記録を取るとともに、疑義がある場合には担当官と議論し、指導が不適切な場合には異議を申し立てるなど、毅然とした態度で対応する重要性を強調。また健保法改正は、弁護士の「帯同」ではなく、指導・監査において保険医が弁護士を選任する権利を確立し、保険医の人権を確保できる環境を整えることが、「最初の一歩」であるとした。

 石井氏は、「憲法が保障する国民の健康的生存権の理念実現には、国民の医療を受ける権利を保障することが必要であり、そのためには医師の診療権(保険診療実施権)を保障しなければならない」と語り、「私の選挙公約の一丁目一番地が健康保険法の改正」と、改めて決意を表明した。

 

『保険医への「恫喝」の防止策を考える』がテーマ

「指導・監査・処分改善のための健康保険法改正研究会」は、指導・監査に関心を持つ、全国の弁護士や医師らで構成し、2012年2月に発足した。2人の弁護士、井上清成氏と石川善一氏が代表を務める。


研究会代表で弁護士の井上清成氏。

 井上氏は、2007年12月、保険医登録と保険医療機関指定の取消処分、それに伴う鳥取県東部医師会の退会をめぐるトラブルを機に自殺した鳥取の開業医、増田聡子氏の事件を担当している(『自殺した開業医遺族、鳥取県東部医師会と調停へ』を参照)。増田氏の遺族は、同医師会と元会長を相手取り、事実関係の説明を求めて調停を申し立ている。石川氏は、保険医登録と保険医療機関の指定の取消処分取消を求めた、甲府市のみぞべこどもクリニックの溝部達子氏の裁判を担当(『国が上告断念、「保険取消は違法」が確定』を参照)。同裁判では2011年5月の東京高裁判決で、溝部氏が勝訴している。

 9月8日のシンポジウムのテーマは、『なぜ増田聡子医師は自死したか? 保険医への「恫喝」の防止策を考える』がテーマ。増田氏、溝部氏の事案のほか、この6月に保険医療機関の指定取消処分を受けた奈良県の東朋香芝病院の事案(『国が即時抗告を断念、奈良香芝病院問題』を参照)などをはじめ、各地の指導・監査の現状や取消処分の動きが紹介された。改めて浮き彫りになったのが、医師およびその弁護士側は法律や根拠に則った運用を求めるものの、行政は指導という名の下、曖昧な運用しており、指導・監査の制度そのものと運用について、改善の余地が大きいという点だ。

 井上氏は、指導・監査に立ち会う自身の経験を踏まえ、「弁護士の帯同すらまだ確立していない県がある。きちんと説明しようとしても担当官に遮られるなど、適切な指導・監査がなされていない。地方厚生局によっても、対応にバラツキがある。法律改正以前に、実務で改善しなければいけないことが多々ある」と述べ、泣き寝入りをせず、多くの事例を集め、問題点を整理・分析し、改善につなげる取り組みの必要性を強調。

 


研究会代表で弁護士の石川善一氏。

 石川氏も、指導・監査には、「実体面と手続き面で問題がある」と指摘。実体面の問題について、石川氏は、「この1年間、いろいろな相談を受けたり、指導・監査に帯同したが、『不当検査、必要な限度を超えた投薬』などと言われることが多々ある。限度を超えているかどうかは明確ではなく、話し合わないことには分からない。しかし、現場のローカルルールで判断され、それを基に個別指導が行われている」と説明。例えば、みぞべこどもクリニックの場合、「インフルエンザの迅速検査を、1シーズンに3回以上実施する」ことが問題とされた。手続き面についても、「(自死などの)悲劇を繰り返さないためには、(行政処分の前に行われる)聴聞では代理人が認められているように、指導・監査でも代理人が選任できるようにするべき」と訴えた。

 


研究会副代表で、医師の大竹進氏。

 研究会副代表で、青森市で開業する大竹進氏は、過去に指導・監査を機に自死した医師、歯科医師の事例を紹介。大竹氏が知る限りでも、2007年には、増田氏のほか、3人の歯科医師が自死したという。「複数の問題が生じた2007年前後に、医療界で何が起きていたのかを検証する必要がある」と指摘。青森では、2009年に「保険医への行政指導を正す会」を設立している。「自死は社会構造的な問題であり、予防するには実態解明が必要」と述べ、医師らが立ち上がることの重要性と健保法改正の必要性を強調した。

 

 

DVD『恫喝〜消された保険医資格〜』を作成


指導・監査を機に自死した増田聡子氏の夫で、横浜市で開業する増田肇氏。

 鳥取の増田聡子氏の事例は、井上氏のほか、聡子氏の夫で横浜市で開業する増田肇氏が説明。両氏が特に問題視したのは、指導・監査の手続き上の問題だ。

 増田聡子氏は、2007年7月25日に個別指導を受け、その後、4回の監査を経て、同年10月31日に取消処分を受けている。同12月末に自死した。井上氏は、「増田氏のケースは、他の多くの事例と共通している」と指摘。(1)個別指導の指摘内容に対しては、当該医師なりの考えがあるが、その部分が勘案されないまま、監査に至っている、(2)監査では先に結論が見えており、途中でうつ状態になっていたにもかかわらず、監査が続けられた、(3)取消処分を決める地方社会保険医療協議会も、結論ありきであり、十分な議論がなされていない、(4)監査の結果、自主返還を求められる場合、短期間に過去5年分のカルテを精査し、対応することが求められ、作業量は膨大である上、精神的、経済的負担も大きい??など、各プロセスに問題があるとした。

 特に(2)について、井上氏は、「『悪いことをやっているのだから、悩むのは当たり前。自業自得だ』という姿勢で、監査を続行することは大変問題。人権感覚が完全に欠如している。うつ状態などが疑わしい場合には、中断するなどの対応が必要。増田氏の場合にも、うつ状態がひどくなったのなら、監査を止めることはできなかったのか。聴聞の場でも十分なことを弁明できていない」と、行政の対応に問題が残るとした。

 また、増田肇氏が鳥取県東部医師会に調停を申し立てた理由について、井上氏は、「取消処分を受けたために、退会届を提出したが、医師会はそれを保留して、裁定委員会を2度も開催した。退会届を出したら、医師会との関係が切れるはずだが、なぜ裁定委員会にかけたのか。それを明らかにするのが目的だった」と説明。ただし、調停は双方の意向がかみ合わず、9月5日に不成立で終了した。今後の対応は現在、検討中だという。

 増田肇氏は、聡子氏は患者に向き合い真摯に診療していたと説明するとともに、当時の指導・監査、処分に至る経過を紹介。指導・監査でも、医師会の役員が立ち会っており、地方社会保険医療協議会にも医師会員の委員が入っているが、「事実と違ったり、(指導を受ける医師を)軽蔑したり、非難する発言が見られた」と、同協議会の議事録を基に問題視した。その上で、増田氏は、(1)行政処分は行政による一方的な処分で、国民の立場に立っていない、(2)最初から結論ありきの行政官のみによる監査を改め、諸外国のように、医師会員・法律家・一般人等による監査制度を立ち上げるべき、(3)個別指導は、医師が主体になって実施すべきだが、その場合、指導される医師と利害関係のない医師が行うべき、(4)行政処分を追認し、調査権限も能力も持たない地方医師会の裁定委員会が、自らの会員を処分するのは、重大な人権侵害??とまとめた。

 なお、増田氏の三男の増田仁氏は、今回の事件について、『恫喝〜消された保険医資格〜』というタイトルのDVDを作成。「真実を知っていただくために、また母の名誉を回復するために作成した。何十人も取材する中で、何人もが、母と同じように暴力的な指導・監査を受けていることが分かった。母の死をムダにしないためにも、その実態を知る資料として活用してもらいたい」(仁氏)。

 

「医師としての人格が否定された」


みぞべこどもクリニックの溝部達子氏。

 みぞべこどもクリニックの溝部氏は、自らの経験を、「個別指導は初めに結論ありきだった。個別指導では高圧的な調査が行われ、医師としての人権が否定され、『私は日本にいるのだろうか、日本でこんなことが起きているのだろうか』とさえ思った」と改めて当時を振り返った。

 さらに、溝部氏は、指導・監査、さらには取消処分の根拠も問題視。例えば、取消処分に先立つ聴聞において、文書開示請求をしたが、患者氏名は黒塗りだったため、どの患者のどの診療内容が問題視されたのか、どんな理由で取消処分を受けたのかが、正確には明らかにならなかったという。溝部氏は、「制度が変わらない限り、悲劇は何度も繰り返される」と訴え、指導・監査の制度改正を強く求めた。

 

「これが行政のやり方かと正直、驚いた」


東朋香芝病院の事案を担当する、弁護士の山田瞳氏

 山田氏は、まず「病院側は、監査の途中から、不当と指摘されている内容について、一部認めるところがあったので、返還をしたい、反省を示したいという意向を持っていた。ただし、その対象範囲を明らかにすることを求めても、地方厚生局からの返答はなく、返還したくてもできない状況だった」と説明。さらに、取消処分に先立つ聴聞についても、「聴聞通知書が発布されるが、記載の内容を弁護士数人で読んでも、何が書いているのかが分からなかった。これが行政のやり方かと正直、驚いた」と述べ、処分の手続き、引いては取消処分の根拠の不明瞭さを指摘。「聴聞のやり取りでも、病院がどんな事実で処分されるのか、何度も聞いたが、『重複する質問はやめてほしい』と言われる場面もあった」と山田氏は指摘するとともに、将来の訴訟に備えるためには、聴聞の手続きでは争点を引き出す重要性を訴えた。

 東朋香芝病院の件では、安定的な診療の継続と職員雇用の観点から、監査の頃から大阪府下の医療法人に病院を譲渡する方向で検討していた。これに対し、奈良県は、後継病院を公募(『後継に2法人が応募、奈良香芝病院問題』を参照)。大阪府下の医療法人は、開設許可申請の書類自体を受け取ろうとしなかった県を相手に「病院開設許可申請拒否処分取消」「不作為の違法確認」などを求め、提訴している。井上氏は、「県がまともな答弁をしないので、2回の口頭弁論で結審した。県が追加の書面を出すとしたが、裁判所は不要だとした。行政は、法律で認められた以上のことを、指導という名のもとでやっている。これは、裁判に訴えても是正しなければいけない」と強気の構えだ。判決は10月31日の予定。

 


シンポジウムは、午後1時半から3時間半にわたり開催された。

 

 

 

指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会 2012.9.2 第1回シンポジウム 報告

2012年9月2日(日曜日)13:30から東京歯科保険医協会会議室(高田馬場)において、「厚生労働省地方厚生局による保険診療に関わる指導・監査・処分の改善を目指して」と題するシンポジウム(指導・監査・処分改善のための健保法改正研究会主催)を開催しました。

全国から57名が集まり、研究会の井上清成共同代表から基調講演がありパネルディスカッションを行いました。そして、「健保法改正」を目標に研究を開始すること、指導・監査における保険医の弁護士選任権を確立することなどが4時間にわたり活発に議論されました。

当日配布資料のダウンロードはこちら  

 

基調講演:指導・監査・処分の改善を目指して  弁護士 井上清成

 厚生労働省の地方厚生局(旧・社会保険事務局)による指導・監査、そして行政処分(保険医登録取消処分や保険医療機関指定取消処分)の行き過ぎが指摘されている。時に、恫喝的とも言われる指導・監査を受けた医師・歯科医師の中には、自殺を選んでしまう先生もいらした。健康保険法には学識経験者を立ち会わせる規定もあるが、その立会人としても中立公平な立場を堅持せざるをえず、もう一歩踏み込んで医師・歯科医師を弁護することはできない。また、弁護士に関しても、多くの医師・歯科医師らの不断の努力によってやっと「帯同」まで勝ち取ったものの、もう一歩踏み込んだ「弁護」まではできないという歯がゆい状況である。

 このままでは患者や家族の実情・要望を踏まえた保険診療が実施しにくく、結局は、患者や家族、さらには国民皆が不利益を受けてしまう。国民皆保険制の下で営まれている保険診療の実施に制約が加わることは、すなわち、国民皆の不利益である。昨今の地方厚生局による指導・監査・処分の強化は、不正請求・不当請求の是正の名の下で、医療抑制へと誘導している。

 これらは問題の所在の一例を挙げたにすぎない。そもそもの根本原因を探ると、そこには健康保険法の法的基本構造の前時代性の問題が潜んでいる。

 健康保険法は、大日本帝国憲法(明治憲法)下の大正11年に制定された。しかし、日本国憲法(現行憲法)が終戦後に制定されたにもかかわらず、健康保険法は抜本的に改定されることもなく、現在に至っている。当然、国民皆保険制を支える基本的人権である生存権(日本国憲法第25条第1項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」)の規定の理念が、健康保険法の文言にも基盤にもない。この点こそが、健康保険法の法的基本構造に歪みを生ぜしめ、ひいては健康保険法に基づく指導・監査・行政処分を法的問題多きものとしている根源である。

 是非とも、指導・監査・処分改善のために、健康保険法を改正しなければならない。

 

パネルディスカッション

「溝部訴訟に見る保険医への指導・監査・行政処分の実態」  小児科医 溝部達子

 指導・監査・行政処分の体験者として、保険医への指導・監査・行政処分の実情を述べた。

 初めての個別指導は「指導」ではなく、心理的圧迫の下での「取り調べ」であり、毎回カルテや関係資料のコピーを大量にされた。不正・不当請求の疑義があるとのことで、個別指導は中止となり、そのまま監査へと移行した。

 個別指導では、保険医は意見を述べ質問する権利はなく、「取消処分は決まっている」と示唆された。

 監査で初めて「非対面処方=架空請求=不正請求」と知らされた。(これが保険医登録・保健医療機関指定取消の理由)「犯罪者」は、自分の意見を言うことも許されず、孤立無援の環境の下、精神的に追い詰められ個別調書に署名を迫られるものだった。

 聴聞会においては、主宰者は社会保険事務局の職員であり、公平・中立性は保持されず、事実付記義務違反、文書閲覧請求権の侵害、質問権の侵害などがあり、形骸であった。

 地方社会保険医療協議会においては、当事者は出席できず、反論もできないところで偽りの事柄が述べられ、「こんな審査なんかむだ遣いというか、必要ない」とのことで、保険医登録・保険医療機関指定取消が決まった。

 ところが幸いなことに、患者さんの「診療所が閉鎖されては困る」という声や弁護士さんの力により、司法による救済を求め取消処分の取消を提訴した。

 その結果、執行停止が確定、一審(甲府地裁)二審(東京高裁)ともに医療者が勝訴し(国が上告を断念したため)取消処分は効力を失った。

 例外的に私の訴訟は医療者が勝訴したが、相変わらず保険医の権利は保障されず、無法状態での指導・監査が続いており、さし当たって弁護士の立ち会いが必要である。

 今後は健康保険法を改正し、保険医の弁護士選任権を明文化することが是非とも必要である。

 

溝部訴訟に見る「保険医取消の実態法と手続法」の現状  弁護士 石川善一

 なぜ私が「指導・監査・処分改善のための健康保険法改正」が必要だと考えるようになったか。その理由を要約すれば、いわゆる溝部訴訟を通して、健康保険法の前近代的な構造とこれによる多くの構造(制度)的不幸を知り、同法が改められなければ、裁量権を逸脱・濫用した処分やその他の不幸が繰り返されるだけではなく、その不幸の下に広がる萎縮医療などによって、広く国民の「健康的生存権」(憲法25条)が侵害され続けると考えるようになったからである。

 では、「健康保険法の前近代的な構造」とは何か。それは、同法においては、実体上も手続上も、憲法の理念に沿った改正がされておらず、行政庁の広範な権限(広範な裁量)のみ規定され、保険医の権利が保障されていないことである。

 まず、実体上、健康保険法の定める保険医登録・保険医療機関指定の取消処分の要件は、極めて広範(保険医の療養担当規則違反さえあればよい)である。それゆえ、溝部訴訟の判決でも、その要件は充たすとされた上で、裁量権の逸脱・濫用という例外的救済に依らざるを得なかった。

 また、手続上、取消処分に至る個別指導、監査、聴聞、地方社会保険医療協議会での審議の手続において、保険医・保険医療機関の権利(手続上の防御権)の保障は、健康保険法上まったく無く、行政手続法上も十分でない。それゆえ、溝部訴訟の判決でも、手続上の違法とはされなかった。

 したがって、健康保険法は実体上も手続上も改正すべき点が多いが,最初の同法改正として、個別指導、監査における弁護士選任権を保険医に保障することが最小限必要である。

 

指導・監査における帯同の実践例 チェックポイント  弁護士 竹内俊一

1 事前作戦会議の留意点
1)厚生局側の違法・裁量逸脱の有無・内容

 これまで,厚生局は,患者調査・通知書面・指導監査手続などで,コンプライアンス(法令遵守)の観点で,問題を起こしてきており,適法・適正な指導・監査の実施を求めるという目的に照らして,問題点を毅然と指摘するために,情報収集が重要になる。
 その得られた情報を,どのタイミングで,どのような手段で提示するのが効果的かが,この事前作成会議の最重要課題である

2)保険医側の問題点の有無・内容

  事前に,保険医側にどのような問題点があるかは,洗いざらい点検しておく。その際,カルテ上は,架空請求が疑われても,実体としては,治療をしていることも多いので,その弁明を正確に説明できるようにしておく。
 なお,当職は,悪質な架空請求事案は受任しないが,それも含めて対応するという弁護士も少なくないので,保険医側に,弁護士を選択してもらうことになる。

3)事前の支援体制のあり方

 保険のルールに詳しい医師・歯科医師・事務局職員をどのように配置するか,及び,弁護士がどのように関与するのかを検討することになる。

4)事前の書面送付・通告の有無・内容

 受任通知を送るのが良いかどうか,実施日の変更を求めるかどうか等の検討。

 

2 当日の留意点
1)委任状を持参し、手渡す。

 弁護士が帯同者ではなく,代理人であることを示すことになる。

2)妨害はしない。しかし,厚生局の問題点は毅然と指摘する。

 弁護士は,医療に関しては素人であるが,法令(手続法も)のプロであるので,弁護士法一条の職責を果たすことになる。

3)保険医の録音・発言を支援する。

 録音機は,着席すると直ぐに,厚生局側にも見えるように置く。

4)厚生局の不明点は確認する。

 厚生局側も,意外によくわかっていないことも少なくないので,確認は不可欠である。

5)緊急の打合せのための休憩は,当然の権利です。

 実際には,頻繁に休憩することはないように,事前の打ち合わせをしっかりしておくが,それでも,長時間に及び集中力が落ちてしまうと,混乱するおそれがあるので,休憩を求めて良い。

 

3 反省会の留意点
1)次回までの情報収集の有無・内容

 続行する場合は,必ず,反省会を開いて,問題点を整理する。

2)次回までの書面送付の有無・内容

 間に,一発,仕掛けることもありうる。

3)支援体制の強化の有無・内容

 従前の弁護士では,対応しきれないので,この領域のプロ(例えば,当研究会会員弁護士)を追加あるいは変更することも視野に入れる。

4)録音の反訳

 協会事務局にお願いすることが多い。

5)打合せの日程調整

 必要に応じて,数回入れることもある。

(注)事例の詳細そのものは,差し支えもあるので,ここでは省略したが,ポイントの内容自体は折り込んでいるので,参考にして頂ければと思います。

 

来賓挨拶  石井みどり参議院議員

 健保法を改正しない限り保険医は行政処分という死刑宣告の恐怖から解放されない。改正の目的は国民の健康権を保障するためであり医師、歯科医師のエゴイズムのためではない。行政は大きな裁量権を手放することはないので、改正には大きな困難が予想される。想定外の妨害や嫌がらせがおこるかもしれないが、全政治生命をかけるつもりで健保法改正に取り組みたい。

 また、研究会会員であり石井事務所秘書の今崎光智弁護士も「今後も議員を対象にした勉強会を開催しながら、立法に関与する立場でも安心できる医療が提供できるように尽力したい」と発言しました。

 

 

 

 

 

 

会員による意見発表  ー「梅ちゃん先生も保険医停止?」ー

パネルディスカッションに続いて会員による意見発表がありました。

小嶋勇弁護士からは「健康保険法改正問題の憲法的位置づけ」と題して発言、指導監査の問題は憲法と深く関わっている。健保法は法治主義から逸脱し、多くの憲法違反がある。「梅ちゃん先生も保険医を取り消されるかもしれない?」と、子供たちにもわかりやすく説明していることも紹介されました。

 

礒裕一郎弁護士から「指導監査における保険医の弁護士選任権の確立を」と題して、指導監査の現状は、刑事事件で被疑者を取り調べるかのような状況にあり、確信を持って責め立てる行政に対し保険医をサポートする人がいない。弁護士選任権を確立することが急務であると発言しました。

 

小木正和弁護士から「弁護士の目から見た現行の指導・監査制度」と題して発言がありました。個別指導・監査と刑事事件の被疑者取り調べとの類似性について解説がありました。現行の指導監査では「密室での取り調べ、自白の強要」にあたり、冤罪事件となる可能性があり、弁護士選任権を確立する必要がある。しかし、それが実現するまでは孤立無援の医師をサポートする弁護士帯同など実践を積み重ねることも提案されました。

 

中原のり子さん(小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会会長)からは、「過労死裁判を通して行政に問題があることを実感してきた」「最高裁では、日本のこれからのよりよい医療のために和解した」「この研究会でもよりよい医療を目指したい」と発言しました。

 

田中聡顕さん(山梨小児医療を考える会代表)は「突然かかりつけ医が無くなってしまったらノ」と題して発言がありました。「溝部先生を支える患者会は自然発生的にでき、恩返しをしたいと活動してきた。短期間で甲府市民の15%の署名が集まり、高裁でも勝訴することができた。今後は、患者市民を第一に考える健保法改正につながってほしい。」と述べました。

 

大竹進医師(保険医への行政指導を正す会代表)からは「医師歯科医師だけでなく薬剤師との連携、さらには勤務医との連携も目指しながら、多くの医療団体と情報交換できること、さらに、指導監査で自死に追い込まれそうなときに相談できるホットラインとしての役割も目指したい」と決意表明がありました。

 

成田博之歯科医師(成田訴訟原告)は、「裁判は一段落したが、保険医の自死が後を絶たない指導監査について日弁連の人権擁護委員会に審査を要請している。指導監査には、自殺への要件、自殺に追い込む道筋が全てそろっている。患者さん、弁護士さんとの連携が始まり広い視点を持ちながら進みたい」

 

 

 

記者会見のご報告

平成24年2月23日、厚生労働省(厚生労働記者会・厚生日比谷クラブ)において、当研究会発足の記者会見を行った。

当研究会の発足と「基本的提言」について、各種業界紙(m3.com、日経メディカル、MEDIFAX、医療介護CBニュース、医療経済出版、日本歯科新聞、歯科時報新社、全国保険医新聞、日本医事新報社など)により報道された。

 日本医事新報(2012.3.3)「溝部訴訟」医師側勝訴で新展開 ― 指導・監査改善へ弁護士ら立ち上がる(PDF)

 

 

記者会見を行いました

次の通り、発足の記者会見をおこないました。

  • 日時・会場:2012年2月23日(木)
        午前10時から 厚生労働省 9階記者クラブ(厚生労働記者会)
        午前11時から 厚生労働省 19階記者クラブ(厚生日比谷クラブ)

  • 出席者:指導・監査・処分改善のための健康保険法改正研究会
        代表弁護士 井上 清成(東京弁護士会)
        代表弁護士 石川 善一(山梨県弁護士会)
        弁護士    小嶋  勇(東京弁護士会)
        事務局長   溝部 達子(医師、山梨県)